認知症患者の在宅介護で味わった地獄の日々に耐え忍ぶ家族の物語

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大事なのは“力関係”

2011 - 01/29 [Sat] - 02:46

爺さんに全てを任せた途端、婆さんのイライラはアッという間にピークに達した。
行動の全てにおいてノロノロしている爺さんにかなりご立腹のようだ。
もう爺さんがふすまを開けていようが閉めていようがこちらの知ったことではない。しかし閉めっきりの介護部屋からは絶え間なく婆さんの文句が聞こえてくる。そんな殺伐とした中でひとつの出来事があった。

デイサービスがお休みの日曜日、爺さんが突然婆さんを妹(叔母さん)の家に遊びに連れていってくると言いだした。普段から「早くうちに帰ろう」と繰り返す婆さんをなんとかコントロールできるようになってきた矢先に婆さんを叔母さんの家に連れて行く…それだけでどういう結末になるか、これ以上変に里心をつけてしまうとどうなるか…結果が目に見えるようだった。
「全部任せてるんだから別に構わないけど、今連れて行ったら絶対に「あたしは帰らない、ここに泊まる」って言い出すからな。もしそうなっても全部自分が責任持てよ。オレはどうなったって知らないからな。」と爺さんに言った。

さすがに釘を刺された爺さんは少し考えたが、最終的には「大丈夫だよ」と言って婆さんを叔母さんの家に連れていってしまった。
久しぶりに爺さんも婆さんもいない状況にはるぼんも家族もホッとしていた。こんなにもくつろげる日曜日なんてどれぐらい振りだろうか。そんなまったりとした休日の夕方に悪魔の電話が鳴った。爺さんからだ。
「婆ちゃんがウチに帰りたくないってゴネちゃって一歩も動こうとしないんだよ。泊まっていくとか言って…どうにもならなくて…」。予想通りの結果だから大して驚きはしない。
「だからそうなるって言っただろ。自分で責任持つって言って連れてったんだから自分でなんとかしろ。」と言ってこちらから電話を切ってしまった。時に午後6時半。

小一時間後、再び電話が鳴った。爺さんからだ。
「全然言う事聞かないんだよ。もう参っちゃった…」。完全に泣きが入っている。「全然立とうとしなくって…」と言っているので「だったら後ろから抱えて無理にでもたたせりゃいいだろ。そんな簡単なことでいちいち電話してくるな!」と返すと「わかった、やってみる」と言って電話は切れた。

夜9時を回った。爺さんと婆さんはまだ帰ってこない。いくら気心が知れた妹の家といってもさすがに迷惑だ。向こうには向こうの生活がある。とりあえずこちらから叔母さん宅に電話をかけてみた。
電話に出た叔母さんは明らかに困惑していた。笑いながらではあったが「なに言っても全然ダメ。自分ばっかり喋ってて人の話なんか聞かないんだもん」との事。全く埒が開かない様子だったので「今から迎えに行きます」といって叔母さんの家に急いだ。

叔母さんの家に着くと爺さんはバツの悪そうな顔をしていた。当の婆さんは呑気にコタツで横になりながらテレビを見ていた。叔母さんは苦笑している。
私:「おい、帰るぞ」
婆:「あたしゃ帰らないよ」
私:「何言ってんだ、人の迷惑も考えろ」
婆:「誰も迷惑じゃないよ」
私:「何でもいいから早く立て」
婆:「ここの部屋はあたしにくれるっていうからここに寝るよ」

叔母さんがすかさず「そんな事言ってないよ」と突っ込むが

婆:「あたしはここの家を買ったんだから」

また叔母さんが「まったくお姉さんは何ワケのわからないこと言ってるん」と突っ込む。自分の言うことを自分の妹に否定された婆さんは例によって次々と帰らない理由を並びたてる。

婆:「あたしゃ今日この家のすぐ近くに家を買ってきたんだからそっちにいくよ」
私:「お前、頭わいてるのか?」
婆:「何を言われても今日は絶対に帰らないからね」
私:「わかったから早く行くぞ」
婆:「行かないよ。今日は殺されたって行かないからね」
私:「わかった。じゃあこっちは殺してでも帰してやるからな!」

と言って婆さんの背後に回って脇を抱えて立たせた。婆さんはキョトンとした顔をしていた。が、全く抵抗はしなかった。
ウダウダとつまらない会話はあったがはるぼんが叔母さんの家に着いてから婆さんを立たせるまで5分と経っていない。叔母さんに話を聞いたところ午後3時ぐらいに帰るつもりだったが婆さんの“帰りたくない病”が発症してしまったようだ。
爺さんにも事情を聞いたが、二度目の電話で言っていた「無理にでも立たせろ」と言ったことを実行したのか聞くと「いや、痛がると思って立たせなかった…」と弱々しく答えた。
相手を立たせてしまえばこっちのものだ。自分一人では立ち上がることができない婆さんは裏を返せば一人では座れないということだ。立たされて抱えられたら成す術もない。
「さあ、帰るぞ」と言うと「靴はどこにあるんだっけ?」と、これまでの抵抗がウソみたいにこちらの言う事を聞くのであった。

言い方は悪いのかもしれないが“力関係”である。ただでさえ我儘言い放題の認知症患者の言いなりになっていてはいけないのだ。いかに相手に「この人には敵わない」と印象づけるかが大事なのだ。そういう意味ではるぼんは婆さんよりも“力関係”では上回っているが、相手を気遣って立ち上がらせようともしなかった爺さんはいつまで経っても婆さんに“力関係”で上回ることはできない。
尚、お断りしておかなければいけないが、この“力関係”というのは一般論ではなく、あくまでもウチの婆さんを基準とした話なので悪しからず…。

「これがアンタの介護のやり方か、お粗末だな」と爺さんの耳元でつぶやいたが爺さんは俯いたまま黙っていた。しかしはるぼんは気付いていた。もちろん多少は婆さんを気遣って無理に立たせなかったということもあるだろうが、実際には爺さんの中ではるぼんの家に帰りたくないという気持ちがあったから積極的に帰らせようという行動に至らなかったのだ。とは言え、他人の家に夜遅くまでお邪魔しているという迷惑は考えなければいけない。
午後3時頃から約6時間半もの時間をかけて言葉だけで無駄な説得を繰り返しているだけだった爺さんと、5分足らずの間に婆さんを自宅に帰すことができたはるぼんの差はあまりもデカ過ぎた。爺さんにとって一番イタかったのは親戚の目の前で己の力の無さを露呈してしまったことだった。

自分の妻にも息子にも勝てない爺さんはさらに破滅への道をつき進んでいく。  〜つづく〜


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決裂!!

2011 - 01/21 [Fri] - 12:48

毎日ではないが“デイ拒否症”は続いていた。気分が乗る時と乗らない時のギャップが激しい。ある程度天候に左右されるようだ。元々我儘な性格であったが、認知症になって理性が薄れてくると抑えるものがなくなるので我儘な性格がストレートに表れる。例え喧嘩になったとしても相手が理不尽な我儘を言えば「ダメなものはダメ!」と、こちらは毅然とした態度を取らなければならない。しかし爺さんはほとんど全ての婆さんの要求をのんできた。下の世話を筆頭に爺さんは爺さんなりに一生懸命に婆さんの面倒をみていたのだが…。

認知症は奇々怪々だ。元々の性格にもよるのだろうが、総じて“人を悪者にする”ことが多い。皮肉な事に一番面倒みている人が一番の攻撃対象になってしまう。接している時間が長いのだから仕方がないのかも知れないが、面倒みているほうはたまったもんじゃない。爺さんはこれの典型的なパターンだった。
夜中にトイレに連れていけと起こされて婆さんを立たせようとすると「イタタ…なんでそういう立たせ方するの? 痛くてしょうがない」と文句を言う。トイレに行くまでの間は支えて歩くことになるのだが、「ちょっと、何で人の事つかんでるの?」と文句。トイレに入って衣類やオムツの上げ下げの時も「アンタは何でいつもモタモタしてんの!?」と文句…。

同居し始めた当初、はるぼんは「面倒みてもらってるのに何を文句言ってんだ!! あんたは爺ちゃんがいなかったら1人じゃ起き上がることもできないんだぞ!! 口のきき方に気をつけろ!!!」と、毎日のように怒っていた。昔から母親の自己中心的な性格が大嫌いなので余計に怒ったのかも知れない。そして怒るたびに「なんであたしばっかり悪者にするの!?」と一瞬反撃してくるが、はるぼんには毎日怒られているので多少の恐怖があるらしく、それ以上は言ってこない。その代わり、そのやり取りを黙って聞いている爺さんに「ここまで言われてるのにアンタはなんでいつも黙ってるの!?」と怒りの矛先が向くのだ。
何かというとつまらないことで婆さんに責められ続ける爺さんを見ていると気の毒だった。しかし…

最初のうちは面倒見てるのに文句ばかり言われる爺さんがあまりにも気の毒で婆さんをしこたま怒っていた。婆さんの腐った性根をとことん叩き直すつもりで怒ってきたが、爺さんの目で見るとそれは婆さんが物凄くかわいそうに思えたらしい。しかしこちらにしたら「かわいそう」なんて言っている場合ではない。爺さんは婆さんの奴隷で一生を終えても構わないのかも知れないが、我が家の中で婆さんを“一番”の扱いにはできないし、してはいけないのだ。
婆さんの“奴隷化”している爺さんを見て「これはマズい…」と思い、婆さんよりも先に爺さんの考え方を改めるほうが先決だと思い直した。
「こうしろ、ああしろ」と命令する気はなかった。しかし爺さんの婆さんに対する態度を再度改めるように、毎日のように話をしていたが、爺さんにとってみたら自分のやっている事の全てを否定されたと感じたのかも知れない。ただでさえ家族の者とコミュニケーションを取ろうとしなかった爺さんだが、これをキッカケに家の中でもどんどん無口になっていった。

もう完全にこちらに対して心を閉ざしてしまった感じだった。しかしこの先何年介護生活が続くかわからない中で妥協は許されない。とにかく必死で爺さんに、婆さんに対する態度を改めるように説得していたのだが…。
“デイ拒否症”とともに「早く自分のウチに帰ろう」と言う“帰宅願望症”も併発していた婆さんに対し、自分と婆さんだけで実家に帰っても自分1人では介護生活なんてできないとわかっている爺さんは婆さんに「早く帰ろう」と言われても「どこに帰るんだ? もうここが自分の家なんだよ」と言っていたが、自分が責められていると被害妄想に苛まれていたこの頃になると「もう2人で自分のうちに帰るか」と婆さんに言うようになった。
さすがにこれには激怒した。もう我が家以外で婆さんの面倒を見れる場所はないのだ。こちらがどれだけ粘り強く婆さんに「ここは婆ちゃんの家だから」と言い続けてきたのか…婆さんが「もうそろそろ帰るから」と言ってきても「ここが家なのにどこに帰るん?」とこちらが言えば婆さんも「あ、そうか、ここがあたしの新しい家だっけか?」と言って丸く収めていたのに、爺さんの一言は全てをブチ壊すものだった。

「もう、そんなに2人で住みたいんならお前らだけでやってみろ! 自分の好きな形で介護してみりゃいいじゃねぇか!! どうせオレが提案した介護方針が気に入らねぇんだろ!!! もう勝手にしろ!!!!」
もうこちらは完全に手を出さないと宣言した。“完全決裂”の瞬間だった。しかし…怒ってはいたが、はるぼんは意外と冷静だった。これまで自分のやりたい介護の形というものを発言しなかった爺さんが1人でどのような介護をしていくのか…お手並みを拝見するつもりだった。が…一時でも爺さんに任せてしまったことで、さらなる大波が押し寄せてくるのだった。    〜つづく〜


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デイ拒否病発症!!

2011 - 01/17 [Mon] - 12:20

要介護5の認定が下りてデイサービスの利用が月〜土になり、精神的にも体力的にも楽になるはずだった。しかし…
ある意味認知症の婆さんよりも問題視されていた爺さんと1日中顔を合わせていなければいけない家族にとっては新たな“地獄”の始まりだった。爺さんのほうもはるぼんとの争いが増えるにしたがって家族との交流を避けているようだった。爺さんにしたら婆さんが家にいてくれたほうが都合がいいのかも知れない。実際、婆さんを送り出したあとの爺さんの顔は死んでいた。

婆さんを送り出したあとの爺さんは介護部屋に籠って寝てしまうことが多かった。一晩中婆さんの相手をしているのだから婆さんがデイに行っている時間にいかに睡眠をとるかで疲れの度合いが変わってくる。しかし…
婆さんを部屋に1人にする時には入り口のふすまを閉めてしまうくせに、何の問題のない爺さんが寝る時にはふすまを全開にしている。
別に爺さんの場合は開けていようが閉めていようが構わないが、「あんたが寝る時は閉めてもいいんじゃないの?」と思うのだ。とくに家族の者は…。

まあそのような事はどうでもいいのだが、デイの日数が増えた途端に“通所拒否病”が発症した。
「具合が悪い」「足が痛くて歩けない」「今日は病院の日だ」「妹の家に行かなきゃ」「今日はあたしにお客がくるから」「実家に挨拶にいかなきゃ」等々…ありとあらゆる理由を並べたてる。
今書いたのはある日の朝に一気に言っていたことだ。
「お前今日1日だけでそんなに用事があるんか? 忙しいババアだな」と思わずツッコミたくなるがそこは怒りを抑えながら冷静に「わかったから黙ってデイに行ってこい!」と相手にしないようにしていた。

しかし…例によって爺さんが勝手にデイを休ませてしまった事があった。
爺さんにしてみたら「こんなに嫌がっているのに…」という気持ちがあったのかも知れないが、それとて何で休ませたのかハッキリした理由は言っていない。仕事から帰ってきてデイに出していないことを知り妻に理由を聞くと「知らない! お爺ちゃんに聞いて!!」と、エラくご立腹の様子。当然爺さんに聞かなければならない。
私:「なんでデイを休んだんだ?」
爺:「いやぁ、何か熱っぽかったからね」
私:「熱は何度あった?」
爺:「熱? いや、測ってない」
私:「何で熱も測らないのに熱っぽいってわかるんだ?」
爺:「いやぁ、婆ちゃんがダルいって言ってたから…」
私:「じゃあ当然病院には行ったんだよな?」
爺:「いや、行ってない ただ寝てただけ」
私:「ふざけるなー!!!!!」

すぐに熱を測ってみたら36.2度。バリバリの平熱だ。結局これも婆さんがデイに行きたくないから「ダルい」と言ったのを、大した確認もせずに休ませてしまっただけのことだが、一番腹が立ったのはデイサービスに事前連絡せずにお迎えに来ていただいた時に「今日は休む」と言ったことだ。
デイのお迎えはウチだけではない。何軒ものお宅を回らなければならないのだから、本当に緊急じゃなければお迎えの前に連絡しなければ迷惑になる。しかし、ここでも爺さんは人様にかける迷惑よりも婆さんの我儘を優先させたのだ。
ところで、この時に妻がどうしていたかというとゴミ捨てに行っていた。いつもならお迎えまでに時間があったのだがこの日はたまたま少し早くお迎えが来てしまったので家には爺さんと婆さんしかいない状況だった。
多分いつも通りに妻が一緒にいればこんなことにはならなかっただろう。自分しかいない状況に気が大きくなった爺さんは独断で休ませてしまったのだった

デイサービスは何のために利用するのか…介護人が仕事に行くため・介護人が楽になるため…介護する側の目線で見れば“介護の負担を減らすため”に他ならない。しかし当たり前だがそれだけではない。
在宅介護になるとどうしても寝たきり状態に近くなってしまう。他人様との交流がなければ人と話すことも身体を動かすことも必要がなくなる。要するに頭も身体も使わないので認知症の症状はアッという間に進んでしまう。介護する側も介護される側もどんどん追い込まれていってしまうのだ。デイサービスは介護される側にとっては脳に良い刺激を与えるという意味でも大変重要なアイテムなのだ。

それを説明しても爺さんは解っているのかどうか…。爺さんはともかく、この日を境に婆さんの“デイ拒否”がより強烈なものになっていった。毎日のように「今日は足が痛いから行かない。大丈夫だよ、迎えに来ても休むって言えば休ませてくれるから。お父さん、言っといてよ」と言って着替えようとしない。爺さんが「ダメだよ行かなくちゃ」と言っても一度休ませているのだから説得力がまるでない。爺さんも「この前は休めたのに何で今日はダメなの!?」と強く言われると返す言葉が無くなるのだ。仕方なく妻が「ちゃんと行かないとパパに怒られちゃうよ 頑張って着替えよう」となだめられてようやくデイに行く準備をする。ここに至って爺さんも「あの時休ませなければ良かった…」と後悔するのだが、その時にはもう遅いのである。

認知症患者はある意味保育園児や幼稚園児と同じだと思っている。園や学校に行きたくないと「おなかが痛い」と言いだす子供と同じなのだ。本当に具合が悪い時というのは毎日接していれば一目でわかる。でも、そうでもない時に一度我儘を許してしまうととんでもないツケが回ってくる事を理解しなければならない。
婆さんの言う通りにすることがイコール婆さんのためになるわけではない。その一番大事な部分を全く理解しようとしない爺さんと、とうとう決裂の時を迎えるのであった。  〜つづく〜


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驚きの結果

2011 - 01/10 [Mon] - 20:52

婆さんの爺さんに対する責めはますますエスカレートしていた。特に「早く家に帰ろう」攻撃が凄まじくなっていた。夕飯を食べていれば「これ食べ終わったら帰るよ」と言い、ベッドに横になってテレビを見ていれば「ほらお父さん、続きはうちで見るから早く帰ろう」と言い、夜中でもひたすら爺さんに「ほら、いつまで寝てるの? 早く帰るから車持ってきなよ」…。爺さんは夜間に関してはトイレの要望以外は起きていても寝たフリをするようにしていた。何かといえば「帰ろう」しか言わない婆さんに腹を立てているらしい。

しかし婆さんのほうが一枚も二枚も上手だ。
婆さんは爺さんが狸寝入りしていることはすでにわかっている。だから余計に責める。
「アンタ、なに寝たフリしてるの? 起きてるのはわかってるんだからね!」
爺さんは起きない。婆さんは責めはエスカレートして声もデカくなる。
「なんでアンタはいつもそうなの? 本当は聞いてるくせに聞けないふりして!!」
さすがの爺さんも相手にせざるを得なくなってくる。
「うるさいなぁ、なんだよこんな時間に! みんな寝てるだろ!!」と反撃を試みる。
この婆さんが相手ではそんなものは反撃にもならない。
「アンタこそこんな昼間っからなにイビキかいて寝てんの? いいから早く実家に連れていきなよ!」

深夜の暗い部屋で話しているのに「昼間」と言い、自分の家に帰ろうと言っていたのがいつの間にか“実家”に変化している。もう騒いでいる本人も訳がわからなくなっているようだ。
「もうアンタと話しててもしょうがないからトイレ連れてってくれる?」。もう支離滅裂だ。
やっとの思いで婆さんを起こし支えながらトイレに行こうとするが、部屋からトイレに着くまでの間に「玄関どっち? あたしゃここで待ってるから早く車持ってきなよ」と言いだす。
爺さんは「トイレじゃないのか?」と咎めるが婆さんは「トイレ? 行きたいような行きたくないような…トイレは実家まで我慢できるから車持ってきて!」

認知症なのに自分の欲望のためならどんな手でも使う。なかなか起きない爺さんを起こすために“トイレ”という言葉を口にする。婆さんを全く制御できない爺さんは話にならないが、毎晩このような騒ぎを起こす婆さんには殺意すら湧いていた。
世間では介護者が認知症患者に虐待に近い行為をして、最悪殺してしまうこともある。認知症患者の我儘な振る舞いに関して、介護している人に「病気なんだから仕方がない」と無責任なことを言う人もいる。しかし実際に介護する立場になってみると「仕方がない」では済まされない事が良くわかる。「病気なんだから〜」と軽く言う人は恐らく介護の経験は無いだろう。ハッキリ言って在宅のみで1人の人間を介護するなんて不可能に近い。そこで施設を利用することになる。

我が家でもご多分にもれずディサービスを利用しているが、この段階ではまだ介護度は出ていなかった。
ケアマネに「早ければ二週間ぐらいで出るはず」と聞いていた介護度であるが、ウチはなかなか出なかった。
担当の方が我が家に来て婆さんと話をした時は1人で立ち上がることもできず、質問にも答えられず、その様子を黙って見ていた爺さんを「またアンタは何にも言わない」と詰るように責めていたが、質問に答えなければいけないのは婆さんのほうだ。そんな事はお構いなしにただひたすら爺さんを責めている。
担当の方にはトイレは1人で行けない事・オムツを使用している事・昼と夜がほぼ逆転している事・1人で着替える事が不可能である事・リウマチを患って3年が経つが改善の兆しがない事・爺さんに対する暴言がひどい事などを申告した。

ある日ケアマネのMさんから、ウチより後に申請したお宅が先に介護度が出たという話を聞いた。ちょっと納得がいかない。
やきもきしているうちに婆さんはますますワケがわからなくなってくるし、爺さんとの争いも絶えなくなってきた。家の雰囲気は最悪だった。
そして申請から約1ヵ月、やっと介護度決定の通知が届いた。結果は
要介護5
見た瞬間ビックリした。リウマチを患っているので要支援にはならないと思ってはいたが、まさか最高峰の認定が下りるとも思っていなかった。一筋の光が見えてきた瞬間だった。要介護5ならディサービスはフルに利用できる。入所の順番も繰り上がる可能性が高い(らしい…)。

早速ケアマネと相談して月〜土まで、週6日のディサービス利用の手続きをとった。
これでかなり楽になると思っていた。しかし…
利用日数が増えたら増えたでそれなりの副作用も出てくるのであった。  〜つづく〜


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爺さん、邪魔するな!!

2011 - 01/07 [Fri] - 21:13

爺さんの“無口”は病院でも発揮された。
今まではリウマチの通院しかしていなかったが、今度からは精神科系の病院にも通院しなければならない。かと言って、爺さん1人では車に乗せることすらできないので、必然的にはるぼんか妻が病院に連れていくことになる。
1日のうちで一番多く婆さんと接しているのは爺さんである事から、婆さんの状態を克明に説明できるのは爺さんなので一緒に連れていく事になるのだが、医者の質問に対しても爺さんはハッキリ答えない。医者に婆さんの状態を聞かれても「どうだったかなぁ」とか「〜だと思う」という返事しかしないので、しまいには「あなた、いつも奥さんと同じ部屋にいるんでしょ!? なんではっきりわからないの?」と怒られていた。

リウマチの病院も認知症の病院も基本的には二週間分の薬を処方してくれるが、最初に薬を出してもらった日がずれていたので結局週1回はどちらかの病院に行かなければならない。オマケに爺さんと婆さんの住所異動や介護保険の申請などの役所関係の手続きや施設利用に関わる手続きなどは爺さん1人ではできないので、こちらが仕事を休んで対応するしかない。
会社に事情は話してあった。しかし最終的には認知症患者の介護についての理解は得られなかった。
諸事情あって契約社員として働いていたが運悪く更新の時期と重なり、「事情はわかるが休み過ぎ」また「この状態がいつまで続くかわからないのでは契約の継続が困難」という理由によって契約の更新が打ち切られてしまった。
とにかく職探しをしなければならない。が、40過ぎのオッサンを雇ってくれるような会社はすぐには見つからない。結局今の仕事に就くまでに1ヵ月の時間を要する事となった。

仕事は無くても介護は続く。
通院箇所が増えるということは薬の量が増えることを意味していた。
これまではリウマチの薬(炎症を抑える薬×2・胃粘膜保護剤)だけだったのが新たに認知症を遅らせる薬と眠剤が加わったので、薬の管理をしていた爺さんがアップアップになっていた。仕方なくはるぼんが薬の管理をする事になる。量が増えたので100円ショップに行って、曜日ごとに錠剤を分けて保管できる容器を買ってきた。飲ませる数は増えても幸いなことに眠剤以外は全て朝食後30分以内に飲ませるものなので、さほど迷うこともないだろうと思い爺さんに任せてみる事にしたが飲ませるのを忘れる時が頻繁になり、完全に任せるのをやめた。薬に関してはいいかげんにするわけにはいかない。

「あんたも認知症なのか?」と疑ってしまうほど爺さんは蝕まれていた。手を出す必要のないところまで手を出し、一晩中婆さんの相手をしているのだからシンドいに決まっている。
朝になると朝食の用意ができていてもいつまでもカレンダーを眺め、訳はわからないがウロウロしている。ディサービスのバッグの中身を何度も何度も引っくり返しては何かを確認している。「なにやってんの? 早くメシ食っちゃいなよ」と言っても返事すらしない。婆さんが「アンタ何いつまでもウロウロしてんの? こっち来て食べちゃいなよ」といわれるとようやく食卓につく。

朝食が終わってディサービスのお迎えが来るまで婆さんは居間のソファーに座って待っている。爺さんは1人黙々とメシを食っている。
今度は「いつまでノソノソ食べてんの?」と婆さんがツッ込む。爺さんは「朝メシぐらいゆっくり食わせろ!」と文句を言うが婆さんの言う通りにするのが生きがいの爺さんはそそくさと食べ終わり、今度は介護部屋の布団を直している。そしてまたカレンダーを眺めてディのバックをチェック…もうエンドレスだ。
ディのバッグの中身は爺さんに任せると中になにを入れてしまうかわからないのではるぼんが前日に用意するようにしているから改めてチェックする必要はない。カレンダーを眺めるにしても布団を直すにしても婆さんをディに出してからゆっくりやればいいのに何故か朝の忙しい時にやっている。こちらにしてみたらお迎えがくるまで大人しく婆さんの横に座って話し相手になっていてくれればいいのだ。

「ウロウロしてないで落ち着いて座っててくれよ」と言うと渋々顔で婆さんの横に座る。何かというと自分を責めてくる婆さんの横にいるのが居心地悪そうだ。
ディサービスのお迎えが来て家のチャイムが鳴る。すると爺さんは婆さんをソファーに置いたままディの職員を出迎えに行ってしまう。すかさず婆さんが「あたしを置いて何でアンタが出てっちゃうの? あたしが行くんだからあたしを立たしてくれなきゃ!」。いちいち尤もだ。
妻が婆さんを立たせて玄関まで支えて歩く。玄関にはディの職員がウチの婆さんを引き取ろうと待っているのだが、婆さんと職員の間にバッグを持った爺さんがいるので邪魔で仕方がない。

もうこうなるとどちらが認知症だかわからなくなる。
翌日から、前日に準備したディのバッグは前日のうちに玄関の所に置いておくことにしたが、ふと気付くと玄関から介護部屋にバッグが移動していて中身が引っかき回されていて、入っていなければならないセーターが出されているのに何故だかズボンが3枚も入っていることもあった。もう全く意味がわからない。婆さんが「あれも入れて、これも入れて」と言っている通りにしてしまった結果だった。
無駄に仕事を増やす爺さんに対し、さすがにこちらも激怒する。こんな他愛のない争いが日常的に続くようになってしまった。

こんな爺さんの行動に、はるぼんだけでなく他の家族も辟易としていた。もう同居することすら難しくなってきている。が、このような状況の中で一筋の光も差してきたのだった。  〜つづく〜


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